保育士不足の現状①~データから見えてきたこと~


保育士不足について、ニュースなどで取り上げられることが増え注目が集まっています。保育士の方々はもちろん、保育所に子どもを預ける保護者や子育て中の方々など、それぞれの立場や経験で感じることが多々あるのではないでしょうか。
私自身現在、健診業務や発達支援に関わる現役の保育士です。これまでに、公立・私立保育園・認定子ども園に勤務し、担任業務はもちろん、地域の子育て支援に関わる事業にも携わり、さまざまな角度から“保育”という現場を、正規職員・非正規職員として経験してきました。そして、現在2人の子どもを育てる“働く母親”でもあります。
だからこそ、保育士、保護者として、保育士不足という大きな問題を、いろいろな立場で皆さまにも考えていただくきっかけになればと思い、執筆にいたりました。今回は前編と後編に分けてお伝えします。前編では『保育士不足の現状と原因』について考えてみましょう。
そもそも保育士とは?
まず、当たり前のようですが、保育士とはどのような資格なのかが重要なポイントです。児童福祉法によると下記のように定められています。
保育士とは第18条の18第1項の登録を受け、保育士の名称を用いて、専門的知識及び技術をもって、児童の保育及び児童の保護者に対する保育に関する指導を行うことを業とする者をいう。
【引用元:児童福祉法第1章 第6節 保育士】
保育士の資格は、名称独占資格のひとつです。保育士という名称を用いて子どもや保護者への指導ができるのは、資格を有する人のみであり、無資格者で働く場合は保育に携わっていても、保育士と名乗ることはできません。
無資格者の場合、大抵は”保育補助員”など別の名称にて保育を行い、あくまでも資格を持つ保育士の補助的な立場になります。
保育士不足の現状
待機児童が増える中で、保育士が足りないと言われているのはなぜでしょうか?現在、保育士資格を持ちながら保育士として働いていない潜在保育士と呼ばれる方が、全国に70万人いると言われています。では、実際にどのくらい保育士が不足しているのか厚生労働省のデータを基に見ていきましょう。
厚生労働省の「職業安定業務統計」には、有効求人倍率という指数があります。有効求人倍率とは、求職者1人あたり何件の求人があるのかを示すもので、「求人数」を「求職者数」で割ったものです。
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(例)
・100件の求人があり、100人が応募したら有効求人倍率は「1」
・100件の求人に200人が応募したら「0.5」
・200件の求人に100人が応募したら「2」
保育士の有効求人倍率はどうでしょうか。
- 【保育士有効求人倍率】
全国・・・1.85
東京・・・5.44
平成27年9月の時点での保育士の有効求人倍率は、全国では、求職者1人につき求人数が1.85、東京は5.44あることになります。求人している保育所はあるけれど仕事をしたい人が少なく、保育士が足りていないことがお分かりいただけるでしょう。
保育士不足の原因をさまざまな視点から考える
それではなぜ保育士が不足しているのか、6つの調査より原因を探ってみたいと思います。
保育士養成施設の卒業生の就職先
まずは、保育士養成施設で保育士資格を取得して卒業した者の就職先を見てみましょう。
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【参考:厚生労働省「保育分野における人材不足の現状①」平成24年】
養成施設で保育士資格を取得し卒業しても、保育所に就職する人数は約半数の51.7%。次いで、幼稚園などの保育所以外の施設が31.5%。その他が16.8%となっています。約半数が保育所以外の施設で働いています。
保育所以外に就職する理由として考えられることとして最も大きい要因は、企業への就職と異なり、保育園や幼稚園での実習を通し、職業としての向き不向きを考える機会があることです。
実習生といえども、子どもの命を預かる1人としての責任の重さを感じながら、寝る間もなく実習日誌や日案、教材を作成するため、事務作業の多さを体感しています。
また、保育園や幼稚園だけでなく、養護施設や障がい児施設での宿泊実習の中で、福祉の立場としての保育士の役割も学びます。そのような体験をしていく中で、保育士を目指そうとやりがいや期待、希望を持つか、自信をなくしたり不安を感じたりするかは大きく分かれるでしょう。
また、保育士の多忙さを考え一般企業の方が初任給の提示額が多ければ、悩む学生も多いように思います。
保育士の勤続年数・離職率
続いては、保育士として勤めてからの離職率に焦点を当てたいと思います。
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【参考:厚生労働省「保育分野における人材不足の現状①」平成25年】
数値を見ると、1年未満から5年未満の早期離職が約50%を占めていることが分かります。また、1年未満から10年未満での離職の合計が約80%にも上っています。
一般的な短期大学などの養成校を卒業して保育士に就労したと仮定した場合、年齢が30代くらいになると離職している可能性も高いと考えられるでしょう。後の離職理由にも挙がっていた「仕事と子育ての両立が難しい」という点とも関係しているかもしれません。
保育士の再就業を希望する求職者の割合
続いては、保育士の資格を有する求職者が、再度保育士として働きたいかどうかについての割合です。
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【参考:厚生労働省「主な人手不足職種に関するハローワーク求職者の免許・資格の保有状況」平成25年】
保育士資格を有する求職者が保育士職種の就業を希望する割合は、51.5%と約半数。逆に1度離職した保育士のおよそ半数が、保育士への再就職を希望していないことも注目すべき点でしょう。
保育士としての就業を希望しない理由
では、保育士として就業しない理由はどうでしょうか。
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【厚生労働省職業安定局「保育士資格を有しながら保育士としての就職を希望しない求職者に対する意識調査」平成25年 】
厚生労働省の調査によると、最も多かった理由は、「賃金が希望と合わない」が47.5%。次いで「他業種への興味」が43.1%。その他には、「責任の重さ・事故への不安」「休暇が少ない・取りにくい」などが挙げられています。
この賃金についての現状について、以下の項でご紹介します。
保育士の賃金
保育士として働きたいと考えている方は、求職者の割合から見ても高いとは言えません。その理由として多く上がっていたのが「賃金の安さ」。どのくらい安いのか民間のサラリーマンの平均年収と比べてみました。
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保育士は公立・民間保育園を含みます。公立保育園に勤務する保育士は、地方公務員として定年退職まで勤務する人が多く、勤務年数に応じてある程度の昇給が保障されています。(それでも保育士職は、地方公務員の事務職よりも提示される給与が低い場合が多いです。)
民間の私立保育園は全体的に勤務年数が短く、昇給の制度も法人などの基準に合わせた形になるため、新卒であれば、保育士の給与の平均よりもかなり低い賃金が想定されます。
保育士全体の賃金の平均値は、私立保育園の新人から公立保育園のベテランまでを含むので、大幅な格差が予測され、それでもなお、保育士の平均賃金は、民間平均に比べおよそ100万円も低いのです。
業務量に対し賃金が合わないという考え方ももちろんですが、仕事にやりがいを感じていても、実際の生活を考え退職せざるを得ない方もいるのが現状です。
実際に自分の経験や、周囲の保育士の知人などでも、保育方針や内容には満足していても、早番や遅番などの勤務時間の長時間化や給与面・福利厚生面などから、やはり生活をしていくためにやむを得ず退職や転職を余儀なくされています。
非正規雇用の増加
保育士の低賃金の問題としてあまりクローズアップされることは少ないのですが、保育士の有資格者の中にも、正規雇用・非正規雇用があります。正規雇用とは、一般企業でいう正社員、非正規雇用とは、アルバイト・パート・契約社員などです。
調べてみたところ、下記のような調査結果があります。
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【ベネッセ教育総合研究所「幼児教育・保育についての基本調査」】
公立・私立ともに保育士の半数近くが非正規雇用であることが分かります。
非正規雇用は多忙な時間帯の短時間勤務や、加配担当、一時保育や時間外保育の担当など、現在保育所にはなくてはならない存在です。しかし、正規職員と同等の勤務時間・内容であるにも関わらず、待遇だけが低賃金という現場も数多くあります。
また逆の場合もあり、正規職員であっても残業や責任の重さばかりが負担となっているにも関わらず、時給換算されるフルタイム非正規職員の方が、正規職員の月給を上回るパターンもあります。
正規職員で働きたいが実際には非正規雇用しかない、あるいは非正規雇用の短時間勤務で働きたいが、正規雇用と同等の勤務形態しか求人がないなど、働きたい形と求人の形がかみ合わない現状も多くあることが、働き手が少なくなる原因のひとつと言えるでしょう。
保育士の資格を生かした多様な働き方(勤務時間など)が選択できるようにすることや、正規雇用の保育士の負担が少しでも軽くなるような雇用形態の見直しも大きな課題であると言えます。
まとめ
今回は、保育士不足の現状や原因、処遇について資料を提示しながら説明いたしました。
なぜならば、「保育士は重労働だ、大変だ、低所得だ」とただ感情的な訴えばかりが先行し、「ただ子どもと遊んで、子守をしているだけなのに」 「うちの園の○○先生は全然駄目だから」などとあらぬ誤解や批判を受けることも多いからです。
0歳から6歳までの幅広い年齢における発達への知識・保育理論・技術・保護者への支援技術などを基にした遊びや生活を含めた日々の保育の仕事における専門性について、職務の知識や技術が世間一般にはなかなか理解されづらいように思います。
現在保育士が置かれている状況について、感情論ではなく客観的なデータを示すことで、あらゆる立場の方々による見解が集まり、より良い改善策が生まれやすくなるのではないでしょうか。
また、他職種、特に介護や医療の職種と比較されることも多く、「○○の方が大変」「○○の方がもっと処遇改善されるべき」などと論争になることもありますが、本来どの職種であっても、労働に見合った対価が支払われるべきです。そして、現在の保育士の賃金などは本当に適正なのかどうかを冷静に検討されるべき時であるということは事実でしょう。
保育士不足の原因として挙げられるデータどのように解釈し、改善していくべきか。なぜ、保育士のなり手が少ないのか。
「保育士が増える=子どもの福祉がより充実する」ということが最大の目的であり、これからの子どもたちがよりよい環境の中で育つために今必要なことは何か。自分の処遇を改善してほしいということよりも、子どもの保育がより良いものになることを願っている保育士が大半だと思います。
現在、専門職としての保育士の現状をもっと世間一般に知っていただき、保育の仕事に携わりたい、子どもたちの成長を支えたい、という人が増えていくような、いろいろな改善が求められています。
そして、保育所に子どもを預ける一保護者としては、保育所が今後も安全・安心で子どもにとってより良い場であって欲しい、という思いが強くあります。少しでも待機児童問題や保育士の待遇が改善されることで、保育所運営や保育士の質の向上が望まれるのではないでしょうか。皆さまはどう考えますか?
関連記事:「保育士不足の現状②~国の緊急対策案についてどう考える?~」
山本猪太郎さん(2016年5月28日)
保育士不足の最大の原因は低賃金・重労働なのに、それを改善せずに保育士不足を改善しようなんて、意味の無い事ですよね。賃上げなくして保育士不足は解消せず、だと思います。
匿名さん(2016年6月26日)
たしかに
今村秀樹さん(2016年9月10日)
保育士不足の原因は低賃金・重労働なのに、なぜ改善されないのだろう?原因が分かっているにも関わらず改善されないのは、問題を解決する気がないからでしょーか。
ま~りんさん(2016年11月21日)
保育士してましたが、個人的には0,1歳児の保育が一番大変だと思います。私は赤ちゃん3人もみれません。しかし、乳児保育の需要が多いのです。
子供が小さい間はお家で子育てに専念できる環境を整えること、正規雇用の増加、育児休暇など、母親が働きに出なくてもいいような経済的な環境を整えることも必要かと思います。
ぽちゃぽちゃさん(2017年1月25日)
子供が保育園でのせいかつについて行けず、ある程度厳しく注意などして身につけてもらわないと一人に手がかかります。親に話すと3歳までは注意とか叱ったりしないそうです。園と連携を持ってもらえないなら、自宅で好きなように子育てしてもらうか、ベビーシッターさんにお任せして1対1で見てもらいたいです。他の子供が可哀相です。その子の為に、色々振り回されたり、出来てたことができなくなり、団体行動に支障がで始めました。2才までに人格形成が出来上がるので、今が大事だと思いますが、親は3歳過ぎてしつけするそうなので注意も出来ないなら責任は持てないと考えてしまいました。やってる事は、月齢より、遅いですね