深刻な保育士不足への国の取り組みとして、保育士資格を介護福祉士などにも取得しやすくするという施策が始まっています。厚生労働省は介護福祉士などの資格を持つ人に対し、一部試験教科の免除を決めました。
果たして保育士不足は改善するのか、少ない人手で福祉分野を支えようとする国の目的は成功するのか…。今回は保育と介護の現場で働く読者、計246名にアンケートを行った結果をご紹介し、現場で働く人たちの意見から今後の課題を探ります。
深刻な保育士不足に対処するために、厚生労働省は介護福祉士などの資格を持つ人に対して、保育士試験の筆記試験を一部免除することを決めました。
【対象となる資格】
介護福祉士・社会福祉士・精神保健福祉士
【免除となる科目】
保育士試験の9科目の筆記試験のうち「社会福祉」など3教科【導入】
2018年度試験から
◆この取り組みの目的は…?◆
福祉分野における人材不足に対処すべく、少ない人手で福祉を支える仕組みづくりを目指すものです。
1人が複数の資格を取得しやすいように、2021年度からは保育士、介護福祉士、看護師などの資格について、養成課程の一部を共通化する方針も決まっています。
目次
介護職の約70%が保育士資格を取りやすくなることに賛成!
今回アンケート調査を行ったのは、介護福祉士をはじめ介護の現場で働く91名、保育士をはじめ保育現場で働く155名の方です。
まずはこの国の取り組みについての賛否を介護職の方に伺ってみました。
「介護福祉士などの資格保有者が保育士資格を取得しやすくする取り組みに賛成ですか?」という質問に対し、介護職では、「賛成」が37%、「どちらかと言えば賛成」が35%、「どちらかと言えば反対」が19%、「反対」が9%と、70%以上の方が賛成という意見でした。
また保育職では「賛成」が22%、「どちらかと言えば賛成」が27%、「どちらかと言えば反対」が32%、「反対」が19%と、約50%が取り組みに反対していることがわかりました。
介護職が選べる職業の幅が広がり、保育士不足解決に貢献できる
介護職の方に賛成意見、反対意見の回答についてそれぞれどうしてそのように思うか理由を伺ってみました。
回答で最も多かったのは「選べる職業の幅が増えるのは良いことだと思う」で91%。次いで「保育士の人材不足解消に役立つと思う」が31%という結果になりました。自分自身のキャリアとして、職業が選べることにメリットを感じられるようです。また保育士の人材不足に貢献できるという思いもあることが伺えます。
続いて反対派の意見です。「介護の職業と保育士とはまったく違う仕事・資格だと思う」が68%で最も多く、また「介護職の人材の流出」も52%と多く、保育士になりやすくなることで今度は介護職の人材が減少してしまう、といった懸念が伺えます。
介護職が保育現場で働くことへの期待と懸念
続いて、介護職の方が保育の現場で働くことで貢献できることについて調査してみました。
調査の結果「多角的な視点が入ることによる保育の質の改善」と答えた方が54%と最も多く、次いで「おむつ交換、保護者対応などノウハウを活かす」と答えた方が46%と、これまでの職場での経験を活かすことで保育現場に貢献できるという意見が多いと感じました。
では実際に保育の現場に立った場合の懸念点をチェックしてみましょう。
介護職の方が保育士資格を取得して保育の現場に立つことに対して懸念する点としては、「各資格の専門性が希薄になること(51%)」や「教育や指導をする職員の負担増(44%)」という回答が目立ちました。やはりそれぞれの資格は別のものであり、簡単にスキルとして身につくものではないということでしょう。また未経験で現場に入ることにより指導する職員の負担が増えることも懸念されています。
今回の制度に対する期待と課題について、自由回答の意見の一部を紹介します。
【保育士と介護は別である】
【職員間の人間関係の懸念】
【その他】
介護のスキルを活かせるポジションで働きたい介護職、保育士として働いてほしい保育士
最後に、保育職、介護職それぞれに対して「介護福祉士・社会福祉士・精神保健福祉士が保育士として働く際に、どのようなポジションを任せたい(担当したい)ですか?」と伺ってみました。
介護職では「保育士以外の資格を活かせるような専任のポジションを担当したい」が33%と最も多く、「通常の保育士と差異なく、同様の業務を担当したい」、「保育補助など、あくまでも保育士のサポートとしての業務を担当」がそれぞれ27%、となりました。
前の質問の回答でもあった、介護のスキルや専門性を活かした視点での業務で貢献したいということでしょう。
また保育職では「通常の保育士と差異なく、同様の業務を担当してほしい」が43%、「保育補助など、あくまでも保育士のサポートとしての業務を担当してほしい」が25%、「保育士以外の資格を活かせるような専任のポジションを担当してほしい」が30%でした。
保育の現場で働く方からは、前職や保有資格が何であれ、保育士資格を取得して働くからには、十分に保育士としての知識と意識を持って、対等に働いて欲しいという声が多く寄せられ、介護職の方とのギャップもありました。
資格の専門性を保ちつつ、相互の専門性を活かすことが重要
今回の調査から、介護職の経験を活かしたポジションの設置や資格のあり方の検討などにより介護職の方が保育現場で働くことができ、保育士不足解消への糸口となることがわかりました。
一方で保育士側からは保育と介護では全くの別物であり一括りにしないで欲しいという意見もあり、簡単に制度を導入すればいいというわけではないという状況です。
実際に保育の質が保てるのかの懸念が大きい中、どのような方法で質を保つのか、相互の専門性を活かすためにはどのような環境だと良いのかを考えていかなくてはなりません。
人材不足だからただ保育士の頭数を集めればいいというわけではなく、必要なスキルを身につけるための研修や取り組みをし、保育士の仕事を理解した上で実施しなければ、今度は介護の人材流失や保育の質の低下につながってしまいます。
保育現場の不安、また介護職側にも同様に保育士として働く上での懸念があることを国が十分に理解し、その懸念を払拭するために段階的に研修やフォローを行い、保育現場も介護現場もプロフェッショナルとして働ける環境整備に力を注ぐ必要があるのではないでしょうか。
保育士資格を介護士にも取りやすく」保育士の約5割が反対する理由とは
- 【アンケート実施概要/保育職】
・実施期間:2017年7月1日~7月15日
・実施対象:
保育園経営者・園長(5%)・保育士/正規職員(41%)・
保育士/パート・アルバイト(17%)・保育士資格取得見込(インターン・学生)(7%)・
その他の保育関連職(保育士資格保有者)(8%)・元保育士/潜在保育士(8%)・
その他(14%)
・回答者数:155人(平均年齢:35歳)
・男女割合:女性/94%・男性/6%
【介護職】
・実施期間:2017年7月10日~7月13日
・実施対象:
介護福祉士(79%)・初任者研修(ヘルパー2級)(40%)・
実務者研修(ヘルパー1級)(14%)・ケアマネージャー(10%)・
社会福祉士(7%)・精神保健福祉士(1%)・無資格(1%)・その他(13%)
・回答者数:91人(平均年齢:39歳)
・男女割合:女性/78%・男性/22%