「多様な視点で #関係性支援 を」『発達障害のある子どもと周囲との関係性を支援する』出版記念イベント レポート


2020年7月10日(金)、株式会社LITALICO主催の「『発達障害のある子どもと周囲との関係性を支援する』出版記念イベント ~著者と共にこれからのコミュニケーション支援について考えよう~」が開催されました。
保育者のみなさんの中には、「気になる子」や障害のある子どもとの関わり方、その子どもがいるクラス運営の方法や保護者対応などに悩んだ経験がある方もいるのではないでしょうか?
日々の保育のヒントにもなる、支援現場のリアルにとことん寄り添ったこのイベントをほいくらいふ編集部が取材しました。
LITALICOとは?

(株)LITALICO提供
障害のある子どもから大人まで、一人ひとりの人生に寄り添った支援・サービスを展開している株式会社LITALICO。
幼児から高校生までを対象としたソーシャルスキル・学習教室の「LITALICOジュニア」は全国に111拠点展開しています。
そこでは様々な子ども達・家庭・学校そして、支援者・専門家との出会いや葛藤、そして成長の喜びがありました。
2020年7月4日発売!『発達障害のある子どもと周囲との関係性を支援する』

(株)LITALICO提供
「子どもやその周りの人達が、笑顔で、生活しやすくなるように」
そんな思いをもとに、LITALICOをはじめとした、子どもに関わる支援の最前線で働く専門家の英知を集結したのが、『発達障害のある子どもと周囲との関係性を支援する: コミュニケーション支援のための6つのポイントと5つのフォーカス』です。
この本は発達障害のある子ども自身ばかりに注目するのではなく、「どうしてそれが問題になるのか?」「そもそもコミュニケーションとは?」をとらえ直すことから始まります。
そして周囲の人や環境との関係性や周りを取り巻く人達がお互いに与えあう影響をふまえながら、「もっと広い視野でアプローチしてみよう!」と提案しています。
7月10日におこなわれた出版記念イベントでは、本の編著者達が出版にあたっての思いや、支援の現場での気づきを語り合いました。
編著者および登壇者の紹介
「全国で活躍している若手の支援者」達が執筆に携わって完成したこの本。
ここでは編著者とイベントの登壇者を紹介します。
野口 晃菜(のぐち あきな)さん

野口晃菜さん
LITALICO研究所所長。本の編著者。
筑波大学にて多様な子どもが共に学ぶインクルーシブ教育について研究・【博士(障害科学)】。
現在は「一人ひとりに合わせた支援・教育の実現のための仕組みづくり、自治体との共同研究、少年院との連携などに取り組む。文部科学省の有識者会議委員としても活躍。
Twitterアカウントは @akinaln
陶 貴行(すえ たかゆき)さん

陶貴行さん
LITALICOワークスシニアスーパーバイザーほか。本の編著者。
大人の障害者の働くを支援や支援者の育成を行っている。
専門は職業リハビリテーション、応用行動分析、認知行動療法。公認心理師、臨床心理士。
井上 いつか(いのうえ いつか)さん

井上いつかさん
LITALICOジュニア アドバイザー。第4章を執筆。
言語聴覚士(ST)の資格をもつ。
医療・福祉機関で勤務後、現在フリーランスとして複数の機関でお子さんの療育や自立支援、ご家族や指導者のサポートしている。
緒方 広海(おがた ひろうみ)さん

緒方広海さん
LITALICOジュニア チーフスーパーバイザー。第3章を執筆。
公認心理師・臨床心理士として乳幼児から成人期までの精神保健福祉、障害福祉の分野で幅広い業務に携わる。
さいたま市にて心理の専門職として約15年働き、現在は支援員の研修・育成を行っている。
こちらで紹介したのはイベントに登壇された4名です。この本には他にも小学校教諭や作業療法士、研究者などまさに現場のプロフェッショナル達全9名が執筆を手がけました。
本の内容をチラ見せ「 コミュニケーション支援のための6つのポイントと5つのフォーカス」
イベントのレポ―トに入る前に、ここで書籍タイトルにもある「6つのポイントと5つのフォーカス」についてご紹介します!
それぞれの専門性と経験をもつ著者達が本を執筆するにあたり、座談会をおこない、支援のエッセンスをまとめ6つのポイントと5つのフォーカスにまとめました。
- 【コミュニケーション支援のポイント】
1.「わからないから知りたい」からスタートする
2.「不適応行動」は本人からしたら「適応行動」
3.誰かに原因を求めても解決しない
4.キラキラポイントに目を向ける
5.コミュニケーションを取りたくなる環境をつくる
6.チームで支援する- 【コミュニケーションのずれを支援するためのフォーカス】
A.本人理解支援
B.本人スキルの習得支援
C.環境調整支援
D.関係性への支援
E.システムへの支援 - 【コミュニケーションのずれを支援するためのフォーカス】
▲『発達障害のある子どもと周囲との関係性を支援する』p16参考
本ではケース対応をもとに、「どんな視点で子どもや周囲に支援を行えば良いのか?」が詳しく解説されています。
イベントは「ここを語りたい!」というポイントを、執筆者自らが解説しました。
イベントトーク「個人の問題に集約されがちな状況を変えたい」

(株)LITALICO提供
それでは、イベント当日の様子をお届けします。
当日YouTubeライブをリアルタイム視聴したのは、発達障害のあるお子さんの保護者・支援者・学校や保育所の先生など、500人近く!
編著者の野口晃菜さん、陶 貴行さん、井上いつかさん、緒方広海さんが登壇しました。
(以下、野口さん・陶さん・井上さん・緒方さん)
「お題は”コミュニケーション”」
まずは本の企画者である野口さんが本に込めた思いを語りました。
野口さん:
まず、この本のお題は「コミュニケーション」です。
「発達障害」で焦点が当たるのは、社会性・コミュニケーション能力の問題と言われます。
子ども達に「ソーシャルスキル」のトレーニングを実施していたりもするのですが……。
コミュニケーションとは本来、双方で築いていくものですよね。
ところが発達障害のある人の場合、「障害・個人の問題に集約されがち」な状況にあります。このような状況は不公平なのではないかと感じていました。
当事者だけにアプローチし、コミュニケーションのトレーニングをするだけでは不十分なところがあります。
「子どもの家族、学校・友人関係、法律や制度など、とりまくシステム全体に視野を広げて見ていけたら良いのではないか」とこの本では提案しています。
「さまざまな立場にある人の”共通言語”を作りたい」
野口さん:
実際に今まで学校や家庭に関わってきた中で、さまざまな職種・専門家と協力して進めました。
せっかくそれぞれが素晴らしい専門性をやそれぞれのアプローチ方法をもっているのに、“共通言語”をもっておらず、子どもや支援者同志がすれ違ってしまうことにも課題感をもっていました。
この本を作るにあたっては、応用行動分析のプロや言語聴覚士の方など、全国の若手のプロフェッショナル達を集めました。
それぞれが経験した事例をもちあったところ、共通する「うまくいったポイント」が見えてきました。
それを分かりやすくまとめたものが「コミュニケーション支援のための6つのポイントと5つのフォーカス」です。
現場発「コミュニケーション支援のポイント」
それぞれの編著者達が厳選した「コミュニケーション支援のための6つのポイント」をそれぞれの思いと経験をもとに話しました。
「その子のことを本当に知りたい!」と思うことがまずはスタート
「分からないから知りたい」から支援する
公認心理師の緒方さんは、とある小学校で支援をした時のエピソードを紹介しました。
緒方さん:
集団行動から外れて、校庭の隅でアリを見ていた子どもがいました。
支援者として、その子の隣に座って、一緒にアリをながめてみるんです。
すると、だんだんと自分も面白く感じるのですよね。
しばらくすると、アリがクッキーを運んできました。
僕が「あ、クッキー」と言うと、するとその子は反射的に駆け出して、学校の外へとびだして行ってしまったんです。
慌てて追いかけると、その子がまたしゃがみこんでいる。そこにはクッキーが落ちていたんです。
この子はそれを僕に知らせたかったのかもしれないですよね。
それで僕も「あ、この子はこうやって物事の”つながり”に関心をもっているんじゃないかな?」なんて思ったりもしたわけです。
始まりは「興味関心」か「どうにかしなきゃ」の気持ち
緒方さん:
この例からも言えるように、「あ! この子のことを本当に知りたい!」と思うことがまずは支援のスタートだなと考えます。
一方で、子どもが不登校になり家で暴力をふるっている……そんな状況で「どうにかしなきゃ」と焦りを抱えて相談にくる親御さんもいらっしゃいます。
そこで「警察呼びましょう」「病院に連れていきましょう」と対応しても支援にはなりません。
そんな時も「この子はどうして暴力をふるってしまうのだろう? 何がストレスなんだろう? 何かを怖がっている?」「この親御さんはどんなことに苦しんできたのだろう?」と思いを巡らせ、「知りたい!」となります。
そこを知らないと「どうにかしなきゃ」もできないからです。
子どもの気持ちも知って、親御さんの気持ちも知って、その上で、両者をきちんとつなげていくのが大事ですね。
「誰かのせい」にも「自分のせい」にもしすぎない
誰かに原因を求めても解決しない
野口さんは自身の反省も踏まえてこのように始めました。
野口さん:
うまくいかないと、誰かのせいにしたくなる。
これって人間の性質だと思うんです。
実際に私も、教えてもうまくできない子どもを責めたり、不適切な関わり方をする先生を責めたりしてしまった苦い経験もありました。
この先生の例をもっと広い視野で考えてみたらどうでしょう。
「先生と上司の関係はどうか? 管理職から言われていることは何だったのか」、
「先生が受け持つクラスの様子や生徒達との関係はどうか」、
「その先生の経験自体や置かれている状況はどうか」
全てがつながっているのだから、全体像とそれぞれの関わり(相互作用)をみないといけなかったのですよね。
「自分を責めないで」
野口さん:
この「誰かのせいにしない」の「誰か」には自分も入ります。
なのでこのポイントは、「自分を責めないで」という意味もあります。
自分だけに原因を求める、ということもやめていきましょう。
瞬間的に「今のムカつく!」と思ってしまう時もありますよね。
そんな時、同じような価値観をもっている相手と共有すると良いですね。
自分の中で抱えこみすぎない、そして新しい視点を増やすことが大切です。
著者に聞きたいQ&Aコーナー
本のエッセンスの紹介のあとは、参加者から寄せられた質問に著者が答えていきました。
参加者から寄せられた質問は20を越え、支援者・保護者の切実な思いが伝わってきます。
ここではその「Q&A」の様子の一部をご紹介します。
Q:振り返りのタイミングや方法はどうしていますか?
支援者・保育者は子ども達とのかかわりを日々振り返ることが欠かせません。
振り返りのコツが質問にあがりました。
野口さん:
私はTwitterを使っています。
書いたり、誰かと喋ったりして言葉にアウトプットしています。
Twitterに書く場合は、もちろん個人情報に気を付けて抽象化しています。
「今の関わり、うまくいったな」というポイントを逐一書き出していますね。
井上さん
うまくいったことも、なんだかうまくいかなかったことも、絶えず思いついた時に振り返りたいものですよね。
一人で考えていると自分や他者を責めがちになってしまいがちです。
「いろんな視点があっていいよね」という前提を共有しつつ、チームのメンバーなどと一緒に、俯瞰(ふかん)しながら、楽しんで振り返ることも大切です。
「チームで支援する」というポイントにつながっていますね。
「わいわいガヤガヤ」検討できる、ポロっとこぼしたことに「それいいね」と認めあえる体験が積めるチームが理想的だと考えます。
Q.発達障害のある子どもの家族の理解が得られない時、どう工夫をすればよいでしょう?
緒方さん:
ご家族であれ、その方が育ってきた歴史や背景・文脈、それゆえの考え方や思い込みがあります。
支援者側からその考え方を強引に変えるというのは難しいのではないかと思います。
ですから、「その子自身を好きになってもらう」のが大事なのではないでしょうか?
障害の有無から入るのではなく、「この子はこんな子なんだ」という視点からスタートし、「この子にはこんなキラキラしているところがあるんだよ」と理解してもらうこと。
そうすれば、いずれ「コレが苦手で、こんなサポートが必要なんだな」と、徐々に理解が進んでいくのではないかと考えます。
具体的にどうするかは……「まずは一緒に過ごす」ことなのかな。
できるだけその時間が居心地の良いものになるように、どう工夫するかですよね。
その工夫が家族だけで難しい場合に、支援者が入っていく、頼ってもらえたらと思います。

「自分、頑張っているな」と褒めてあげよう、と陶さん
陶さん:
まさに「関係性を支援する」の問題ですよね。
僕が考えるに、そもそも「全然理解がない」ご家族っていないんじゃないかなと思います。
緒方さんがおっしゃったように、ご家族一人ひとりにもその親から受けてきた影響などの「文脈」があります。
だから「理解したくない」「よく分からない」部分があり、一方で「その子の好きな部分」ももちろんあったりと、非常に複雑です。
そこで、僕は「オープンダイアローグ」(※)を実践していて気づいたことがあります。
みんなが集まって、開かれた場所で対話することが重要なんです。
「オープンダイアローグ」の中では、ご本人の不満が出てきたり、様々なトピックも出てきます。
「分かり合えるか分からない」けれど、その不確かさに耐えながらも、対等に伝えたいことを「交換」していくんですよね。
そしてその「交換」の先には「そうだったのか!」「そんな理由があったんだ!」と発見があります。
熟練の支援者は子どもの視点をうまく「交換」つまり「引き出し」て、周りの先生や保護者に共有しているんです。
すぐに安易な答えは出せないのですが、対話を続けること。
そして、関係性の支援では「違いを分かちあって交換する」ということが大切ですね。
「オープンダイアローグ」とは
「開かれた対話」を意味する、フィンランド発祥の精神療法。
フラットな関係性の中で応答を続けることで患者の症状の緩和につながるとみられている。
登壇者からメッセージ

写真左から陶さん、野口さん、緒方さん、井上さん
最後に、登壇者から、支援者・保護者・現場で子ども達と向き合う方々へのメッセージが送られました。
緒方さん:
言いたいことは本に詰め込みましたが。(笑)
「子どもだけがダメなわけじゃない」「周囲の環境や関わりからアプローチしていく」という視点をもっていただけたら嬉しいです。
井上さん:
ぜひ、日々お子さんと接しているみなさんから「このことがもっと知りたかった」という意見が欲しいです!
みなさんの困りごとのサポートになる内容なので、どんどんとシリーズ化していけたらとワクワクしています。
陶さん:
親御さんや支援者の方、それぞれの立場があっていいし、それを大事にしてほしいと思っています。
自分に問いかけて、大切なことを理解し、ぜひ共鳴する思いをもっているみなさんと交換して欲しいです。
価値を見つけるためには「自分にやさしく」することを忘れないでください。
そうすることで子どもも心を開いていくはずです。
野口さん:
様々な分野のプロフェッショナルとこの本を作りあげることができて嬉しいです。
人間は一人では生きていけません。
それは支援者も同じです。
色々な立場の方にご覧いただいていると思いますが、子どもが幸せになって欲しいという思いはみな同じでしょう。
その同じ思いをもっている仲間で、みなさんつながっていきましょう。
本日はご参加ありがとうございました!
特別メッセージ
今回は特別に保育関係者が多い「ほいくらいふ」読者のみなさんに向けて、見どころやメッセージを編著者の野口晃菜さんからいただきました!
その時にどうしても子ども自体に「問題」を置いてしまいたくなりますが、一人で悩まず、周りの先生方、そして外部の専門家や自治体の職員など、周りの人に頼りながら、その子とその子を取り巻く関係性を見てみてください。
その際、この本にある6つのポイントと5つのフォーカスを役立てていただけると嬉しいです。
視聴いただいたみなさん、ありがとうございました!#関係性支援 pic.twitter.com/DYA78srtE3
— 野口晃菜 Akina Noguchi (@akinaln) July 10, 2020
イベントの様子は Twitterのハッシュタグ#関係性支援から見ることもできます。
ぜひ当日の盛り上がりを感じてみてください。
ほいくらいふ編集部より
今回のイベントは、「発達障害のある子どもの支援」がテーマでした。
しかし、「子ども・保護者の一人ひとりに心を寄せて向き合うこと」や、「支援をする人自身が自分を大切にすること」など、保育にも通じることがたくさんありました。
「ついつい子ども一人に目がいって視野が狭くなりがちだな」「なんだか周りとのコミュニケーションがうまくいかないな」と悩んでいる方は、ぜひこの本を手に取っていただけたら嬉しいです。
作者の方々、そしてLITALICOのみなさん今回はありがとうございました!
◆株式会社LITALICOについて◆
「障害のない社会をつくる」のビジョンのもと、
働くことに困難のある方向けの就労支援サービス「LITALICOワークス」
学ぶことに困難がある子ども向けのオーダーメイド学習教室「LITALICOジュニア」、
IT×ものづくり教室「LITALICOワンダー」などを全国に展開。
社会課題、障害に関する研究機関「LITALICO研究所」では研究活動・政策提言もおこなっています。
HP: https://litalico.co.jp/
◆書籍情報◆
『発達障害のある子どもと周囲との関係性を支援する:コミュニケーション支援のための6つのポイントと5つのフォーカス』
野口晃菜、陶 貴行=編著 / 中央法規出版
発行日:2020年7月10日 価格2,420円(税込)
参考文献
- 野口晃菜・陶貴行(2020)『発達障害のある子どもと周囲との関係性を支援する: コミュニケーション支援のための6つのポイントと5つのフォーカス』中央法規出版
- 中央法規出版|商品情報「発達障害のある子どもと周囲との関係性を支援する」(2020/07/22)
- 一般社団法人 日本言語聴覚士協会「言語聴覚士とは」(2020/07/22)
- LITALICO発達ナビ「【イベント参加無料】7/10(金)オンライン開催決定!「発達障害のある子への一歩進んだコミュニケーション支援」とは?野口晃菜LITALICO研究所長ほか登壇」(2020/07/22)
- 博報堂財団こども研究所「対談『オープンダイアローグ』に学ぶ 子どもとの対話の持つ可能性」(2020/07/22)
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