4本の指でうまれた私と娘の幼稚園生活~保育士さんへ伝えたいこと~


みなさん、はじめまして。NPO法人Hand&Footの副理事、大塚悠と申します。
Hand&Footは生まれつき指が短かったり指の数が5本ではなかったり、大きかったり欠損していたり…一般的に「先天性四肢障害」といわれる手足で生まれてきた子どもたちと、その家族を支援する特定非営利活動法人です。
私の右手は生まれつき指が4本で、医学的には裂ける手と書いて「裂手症(れっしゅしょう)」と呼ばれています。2万人に1人の確率でこの世に存在するといわれているこの手は、私の娘にも遺伝し、娘は両手の指が4本で生まれてきました。
この症状は手だけではなく足に出ることもあり、足の場合は「裂足症(れっそくしょう)」と呼ばれています。
私と同じような手や足で生まれてきた子どもたちが、保育園や幼稚園でキラキラの笑顔で過ごすことができるよう、私の幼稚園時代の経験や娘の園生活のことをお伝えしながら、かかわり方のヒントをご紹介します。
友達のお母さんに怖い顔で見つめられた~私の幼稚園時代~
裂手症はその名の通り、手が裂けたような状態で生まれてきます。
裂手や裂足に限らず、多くの人とちがう手足のかたちで生まれてきた子どもたちは、多くが整形外科や形成外科の専門医と相談のうえ、見た目や機能を向上・改善させるための手術を1歳前後で行います。
手術を行った子は縫った跡が手足にあり、園生活においても目に見えることがあるでしょう。またこの手術跡は症状のある部位だけではなく、皮膚移植を行った部分など身体の数箇所に残っている場合があります。
私は0歳10ヶ月の頃に手術を受けたので、手の甲と手のひらに糸で縫った手術跡が残っていたものの、幼稚園に入園する頃には見た目や機能はだいぶ改善していました。
4~5歳で子どもたちは違いに気付き出す

3歳の私
4~5歳の頃、私は独特なピースサインをカメラに向けていました。今振り返ってみると、幼稚園時代は周りから自分がどうみられているのかを全く気にしていなかったように思います。
幼稚園時代は友達にいじめられることはありませんでしたし、とくに不自由もなく楽しい園生活を送っていました。私の右手が皆とは違うことに気づいたきっかけは、同じ幼稚園の友達に指摘されたことでした。
子どもたちが違いに気づくタイミングはそれぞれですが、Hand&Footの子どもたちを見ていると、おおよそ4~5歳で本人も周りも違いに気付きだしていくことが多いと感じています。
本人や同じクラスの友達が気づかなくても上級生の子と接した際に指摘されることがあるので、入園当初から、子どもたちから聞かれたときの答え方や本人が気づいたときの対応を保護者の方とあらかじめ話し合い、統一させておいたほうがスムーズでしょう。
私は幼稚園時代に、私の手のことを聞いてきた子どもの母親が驚き、怖い顔で私をじっと見ていたことがあり、そのことを今でもはっきりと覚えています。
そのような経験もあり、理解をよりすすめるためには子どもたちだけではなく保護者懇談会の際などに、他の保護者の方へ説明する機会をいただけるとよいのではないかと考えます。
当たり前に受け入れてくれた、娘の幼稚園
冒頭で書いたとおり、娘は私と同じ裂手症で両手ともに4本の指で生まれてきました。娘は、現在幼稚園生活3年目を迎えています。
入園当時は心配も多かったですが、担任の先生がいつも明るく優しく「大丈夫ですよ」といってくれたことに大変救われ、これまで過ごしてきました。
担任の先生は、両手の指がすべて欠損しているお子さんや口唇口蓋裂のお子さんの担任をした経験があり、娘の手についても決して動じない言動で、いつも優しく包み込んでくれるような安心感を与えてくれます。
心地よいクラスの雰囲気は、先生の受け答えのおかげ
娘の手について同じクラスの子どもたちに指摘されたとき、その担任の先生がいつも明るく当たり前のように「かわいい手だよねぇ」と答えてくださっていました。
それを聞いた子どもたちは、娘の手は「娘の当たり前の手なんだ」という受け取り方をしてくれ、それ以降疑問に思う子はいなかったようでした。
年長になりクラス替えをすると、初めて同じクラスになった子から指摘されることがありましたが、先生がまた当たり前のように娘の手のことを話してくれました。
そのおかげで、娘は自分で「この小指なんてとくにちっちゃくてかわいいでしょ」といったり、見たい子には見せてあげたりというような対応ができるようになりました。
そんな場面を見かけると私も自分の右手を見せてあげるのですが、そうして仲良くなった子どもたちは満面の笑みで私に駆け寄ってきてくれ、遠くからでも手を振ってくれます。
興味関心の強い子どもたちがいろいろ聞いてくるのは、嫌な思いをさせたいのではなく単純に疑問に思うから、そして知りたいからなので、娘の先生のような動じない受け答えによって生まれるクラスの雰囲気にはとても安心しています。
保育士さんにお願いしたいこと「まずはあたたかく見守って」
本人としては、4本の指だからといって「助けてもらいたい」ととくに考えているわけではありません。
ただ機能的に難しい作業はあるので、どうしてもできないことに関してはさりげなく手助けしてくれると嬉しいです。
それは特別扱いしてほしいという感覚ではなく、ボタンを閉めるのが苦手な子や洋服をたたむのが苦手な子がいるように、それと同じような感覚で手伝ってくれるような感じで十分だと思います。
本人はその子なりにその手足でこれまで生活してきているので、本人なりのやり方を生み出していて、工夫すれば手助けなしでできることもたくさんあります。
だからまずはあたたかく見守ってみてください♪
周りの子どもたちが聞いてきたときの対応は、本人も友達も「自分を好きになれる声掛け」が素敵だと感じます。もちろん「なんで?」の答え方は、その子どもの保護者がどのように周りへ伝えてほしいのかが優先となるでしょう。
幼稚園では先生の発言が子どもたちにとって絶大な影響力があります。
たとえば「自分と違うところを見つけるのってとっても楽しいよ」とか「●●ちゃんのちっちゃくてかわいらしい指も先生大好きだし、●●ちゃんの細くて長い指も先生大好きよ」など声掛けしたことで、それを聞いた本人も友達も、皆「ほっこりするあたたかい時間」になればと思います。
幼稚園の経験は、きっと小学校での頑張る力になる
私自身が4本の指で、娘も4本の指。そんな私が思うことは、園生活において特別なことは何もいらないということです。
みんなと変わらず、「自分を大切に」「自分を愛すること」そして「他人に愛されること」の素晴らしさを、園生活を通して感じてもらえたら、幼稚園を卒園したあと小学校での頑張る力になるはずだと信じています。
多くの人にさまざまな手足のかたちがあることを知ってほしい
私が幼稚園時代に体験したできごとのように、人はだれでも今まで見たことがないものを見るとビックリしますし、時には心ない言葉を言ってしまったり、怖い顔になってしまったり…そういうものなのかもしれません。
大人になればなるほどその傾向は強いと思いますが、小さい頃にいろいろな手足のかたちの人と出会う経験があった子どもは、その驚きは少なくなります。
子どもたちがいろいろな個性の人と出会うことは、「全く同じ人が存在しないからこそ、人との出会いは楽しいものとなる。」という、素晴らしい事実を知るきっかけの一つになるでしょう。
手足の違いも顔や髪の色・体型と同様だと思っていますし、だからこそより多くの子どもたちに、さまざまな手足のかたちがあることを知ってもらいたいと考えています。
右手が3本の指で生まれてきた女の子が主人公の絵本
私や娘と同じような手足で生まれた子どもたちが、似たような場面に出くわしたとき自信をもって対応してほしい、そして少しでも多くの人に、多くの人と違う手足のかたちで生まれてきた子どもたちがいることを知ってほしい…
そんな思いから、現在NPO法人Hand&Footでは、2018年末の出版を目標に絵本の制作を行っています。
また「なんで?」と本人や周りの子どもたちが気付き始めた頃に、ご家庭や幼稚園、保育園で子どもたちへ読みきかせできる絵本を目指しています。
この絵本が「ふつう」とは何か・「ふつう」と違うことはかわいそうなことなのか?手足のかたちに限らず、”人と自分の違い”について考えるひとつのきっかけになればと考えています。
出版:>センジュ出版
文:>LICOさん(作家/育児アドバイザー)
画:>江頭路子さん(イラストレーター/作家)
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匿名さん(2021年2月6日)
私の右手もお宅と同じ障害で手術を受けました。